マダム・エミリー・テストの手紙


先日ふらり皇居の北の丸公園に出向き、くるりと周囲をふらついた。その日武道館ではザ・ひとりHOUND DOGのライブが開催されるらしく、辺りは中途半端に物々しい雰囲気に包まれていた。明らかに大友康平を意識したリーゼント頭のファン(オッサン)らがノリノリで喋っているのを、いちごかき氷で舌と唇とを蛍光ピンクに染めながらしばし眺めていたが、果たして何も心に響いてこなかった。とりあえず「リーゼントカッコ悪い2006」とう標語でもって気持ちに整理をつけた。
日も陰りかけた夕暮れ時、何の気なしに公園内の芝生に寝そべってみた。ぼろサンダルを脱ぎ捨てダーっとあお向けになると、信じられんくらい高い空。

おう・・・。これはこれは。たは。まァ雌蚊なからましかばとはいえ、風も涼しくなかなかに心地よい時間を過ごした。ごろりついでに鞄から文庫本を取り出し読書。先日買った「ムッシュー・テスト」の「マダム・エミリー・テストの手紙」という章を読んでいたのだが、その中に私の現在の気分を代弁するかのような一節を発見した。

・・・結局のところ、あのひとのことがあまりよくわかっていないからこそ、この地上で生きてゆく来る日も来る夜も、次の瞬間がどうなるかまったく見通しがつかないからこそ、わたくしはほんとうに幸せなのですね。わたくしの魂の渇望しているのは、なによりもただただ驚かされるということです。期待とか、危険とか、すこしばかりの疑いのほうが、確実なものを所有することよりも、ずっとわたくしの魂を昂揚させ、生き生きとさせてくれる。・・・

正しく!不確実なものへの指向とでも言おうか、私は今まさにその真っ只中にいるのだ。これまであらゆる物事は不安定から安定へと向かうものと考えていたのだが、このところ私はその逆を目指している・・・というか勝手にそちら側に惹きつけられているようなのだ。ただしそれが正しいことなのか、あるいは無駄な回り道にすぎないのかは解からない。不確実な。不安定な。うやむやな。モヤモヤな。ふあふあな。嗚呼!そのような状態が楽しく思えるお年頃なのであーる。オー・アール・ゼット!