松葉杖でバストアップ!

窓の外を見遣ると、童話のなかに出てきそうな優しい色の青空が広がっていた。心なしか春の息吹を感じるこの陽気に連れ出されるように、私はそっと表の世界に出たのだ。天神さまの梅の蕾も私と同じ気持ちに違いない。わけもなく、微笑んでしまう。
けれど、ほどなくして空の魔法は解けてしまった。
大学までの道のり。普段なんでもないように歩いていたその道が、今日はひどく長いものに感じられる。15歳になったころ、ぼんやりと残りの人生を考えていた時の感覚にも似ている…ひどく、長い。松葉杖で歩くことがこれほど疲れるものとは知らずに出発したものの、いよいよ額に汗がにじみ、腕が重くなるにつれ、これは駄目だとそれ以上歩くことを放棄してしまった。大胸筋が張っているのがわかる。これをしばらく続けたらCカップも夢じゃないだろう。だが、タクシーを呼び止めた瞬間に、Cカップはまた夢の世界へと舞い戻ったのだった…。

怪我をしたその日から家庭教師もお休みさせてもらっていた。大学に着くと、その生徒からメールが届いているのに気がついた。ポップな内容だったので、こちらもポップに『明日は3階まで(彼の勉強部屋は3階にある)パチ沼背負いの刑ね!頼んだ!』と送ると、さらにポップなメールが返信された。

大丈夫。うち一階のトイレから流れれば三階のトイレから出るように出来てるから。

またうんこの呪いか…!しかし、この全く大丈夫じゃないメールを見て、わけもなく、大丈夫な気がしてきたのだった。いやダメだけど。