GNP

国民総生産のことではない。
今年度もまた調理師専門学校にて非常勤講師を務めることになったのだが、そこでGNPの本当の意味を知り、近年まれに見る衝撃を受けたので報告させていただきたい。
講師控え室での出来事。この学校では調理師として必要とされる様々な学問を教えているのだが、講師の大半は定年退職後に非常勤講師として教鞭を執っているシルバー世代で占められる。最近でこそ若い講師もちらほら見受けられるようになったものの、講師控え室はさながら甘い加齢臭漂う老人集会所といった様相である。しかしさすがに教師を務めるだけあって非常に元気なお年寄りが多く、頭の回転も早くまた弁が立ち、政治経済の話から下世話な話まで実に幅広い話題で盛り上がっていることが多い。
その日は後期高齢者医療制度の話で持ち切りだった。私はというと文庫本片手に年寄りらの話に耳を傾けていたのだが、いやはや当事者なだけあってきっと切実な問題なんだろう…と思いきや彼らはいたって明るい調子。
「いやぁもうね、こうなったら我々も早いとこ死んだほうがいいよね!」
「そうそう、まぁでもこの学校辞めたら早いよ。もって1、2年だね。ほら、○○先生も辞めて1年ぐらいで死んだし。」
「そうね、あと××さんも辞めてからすぐ死んだものね。俺葬式出たけど。学校辞めたらそりゃあ早いわね。」
「私なんかも学校が生き甲斐だもの!」
「あとあれ誰だっけか?あの人も確か奥さん死んで、それでもって学校辞めてから息子と住んでたみたいだけども、このまえ階段から落っこちちゃって。」
「あら、それは。」
「救急車で運んだけど結局死んじゃったって!」
「あらま。死んじゃった!まさかあの人が階段から落ちて死ぬとは…ハハハ!」
「あははは!」
笑ってらっしゃる!大いに笑ってらっしゃる!私は愕然とした。あの歳になると死というものがこれほどまでに軽い存在でしかないのか。
「いやいや、でも階段から落ちて死ぬのも悪くないよ。やっぱダラダラ生きてたらダメ。」
「そうそう、これから我々年寄りは「GNP」をモットーに生きないとだめですよ。GNP、元気、長生き、最期はポックリ!」
ポックリ!という響きがあまりに軽妙で思わず吹き出しそうになったが何とか堪えた。そうきたかGNP。KYより断然上手くできてるよ…座右の銘はこれに決まりですな。嗚呼年寄り、畏るべし!